西洋美術史1 北方ルネサンス1(イタリア・ルネサンスとの比較)

北方ルネサンス1,2では、それぞれ主に初期ネーデルラント絵画とドイツ・ルネサンスを扱います。

ネーデルラントとは、だいたい今のベルギーとオランダに相当する地域です。16世紀後半まで、このネーデルラントという地域は文化的な一体感を持ち、また政治的にもブルゴーニュ公国を中心として緩やかに統一体を保ってきました。

「初期ネーデルラント美術」は、おおよそ15世紀から16世紀の初頭にかけてネーデルラントで展開した美術です。とくに絵画が重要で、なかでもヤン・ファン・エイクは透明油彩技法を完成させた画家と見なされてきました。このときの油彩技法は、板に白い下地を施し、下絵を描き、暗部(陰影の部分)を暗色で描いてから、透明度の高いグレーズ層を何層にもわたって塗り重ねていく(その都度乾かす必要がある)という、丹念で時間のかかる技法でした。その代わり、色彩に深みと同時に透明感があり、質感描写に優れた能力を発揮したのです。

イタリア、ルネサンスとの違いを、幾つかの点に分けて確認しておきましょう。

①線遠近法について

 イタリア:厳密な線遠近法を計算に基づいて適用。理論化も進んでいる。

 ネーデルラント:経験的。ヤン・ファン・エイクは遠近法も高いレベルで処理していますが、一般的にはおおよその感覚で描いていることが多く、あからさまにパースが狂っている場合もある。

②人体表現について

 イタリア:プロポーション(比率)などを重視し、正しい人体表現を目指す。

 ネーデルラント:華奢な人体を描くことが多く、身体部位の比率も必ずしも現実に即していない。

 

 イタリアの初期ルネサンスにおける重要ポイントだった線遠近法と人体表現に、この時点での北方の画家は関心がやや低いことが窺えますね。

 一方で共通点はというと・・・

③(それ以前の絵画と比べると)空間の奥行き感、事物の立体感が強い

 これはイタリア、ネーデルラントともに、15世紀の絵画の大きな特徴です。そしてこの立体感・空間感は、現実味(リアリティ)をもたらすものとして重視されていました。

では北方の方が優れた点というのはないのでしょうか。

④事物の表面の質感表現について

イタリア:あまり強い関心がなく、質感の描き分けは最低限。

ネーデルラント:迫真的な質感描写が追求される。ガラス、金属、水などの反射や光沢、複雑な光のきらめき、毛皮や木材の手触り感、空間の片隅の暗がりなど、描写の質には徹底的にこだわる。

⑤風景表現について

イタリア:樹木をデザイン的に図式化したり、山を色面化したりと構成的な感覚が強い(単純化に陥ることも)

ネーデルラント:自然のなかに存在する個別性や偶然性をすくい取って、現実感があり具体性の高い風景表現を展開

風景の違いについては、以下の図版でも見比べてみて下さい。

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